民事信託における受益権に関する考察[堀野桂子](金融法務事情)
金融法務事情2018年11月25日号(no.2102)より。
○民事信託における受益権に関する考察
堀野桂子
信託関係の金融法務の実務経験が豊富な堀野桂子弁護士による解説。
アパートローン信託の契約書作成実務者だと、必読なのかも。
◆受益者指定権について
まず、受益者指定権が信託行為で留保されている場合もあり得ると。
要するに、生殺与奪権を委託者が残しているケースですね。
その場合、受益者の意思に反して、受益権が剥奪されることもある。
そして、別の第三者が受益権を取得する事態もあり得ると。
そもそも、受益権の債権者が、受益権を責任財産として期待し得るのか。
信託次第では、受益権が消滅するリスクがあるので注意せよと。
次に、代位行使が可能かという点は、行使上の一身専属性の有無次第。
具体的事案に沿って、信託行為の解釈が必要になると。
また、詐害的行使の取消しは困難であると考えられていると。
受益者指定権が付与されると、受益者責任財産として把握しがたいと。
ということは、銀行はローンで融資してくれない危険性があるわけか。
なるほど、こういう意識は、普通の人ではなかなか持てないですね。
◆受益権の譲渡による変更
受益権の譲渡について、譲渡禁止特約を付けるかどうかは。
民事信託では、人的関係が強いので、より必須であろうと。
◆受益者の死亡時に受益権が消滅するとの定めがある場合
相続財産としての受益権は残存せず、相続の問題は生じない。
後継ぎ遺贈型受益者連続信託でも、指定された受益者死亡があった場合。
その受益権は消滅し、次の受益者が新たな受益権を取得することになる。
これは、相続による承継とは考えないと。
そうですね、だから、相続税法は特例を用意しているわけですが。
◆帰属上の一身専属性が受益権に認められる場合
民法896条但書で、帰属上の一身専属権は相続されない。
受益権であっても、該当すれば、相続財産に含まれないことになる。
この場合、この受益権は、相続財産からは外れることになる。
そして、次の受益者が指定されていないか、不存在であれば。
この受益者死亡により、信託目的達成あるいは不達成による信託の終了になると。
◆帰属上の一身専属性が受益権に認められない場合
逆に、帰属上の一身専属性が受益権に認められない場合であって。
受益者死亡により受益権が消滅しないと信託行為で定めてあれば。
受益権は、受益者を被相続人とする相続財産に含まれて。
受益者の相続人に相続されることになると。
ここで、相続人が複数であれば、受益権は共同相続されることになり。
準共有になるであろうと。
これらを踏まえて、受益権の相続を望まない場合の対応が必要で。
特定の受益者死亡を信託の終了事由にしたり、
後継ぎ遺贈型受益者連続信託として受益者死亡後の次の受益者の定めを設けるなどが必要になると。
◆受益権の放棄
受益権が放棄できるのは、信託行為の定めにより受益権を取得した者限定だと。
信託行為の当事者であれば、受益権は放棄できないのだと。
商事信託は譲渡により受益権流通するのが一般的であるが。
自益信託受益権を委託者兼受益者から譲受された第三者も放棄不能だと。
なるほど、民事信託かつ限定的なケースでのみ放棄できる者が存在するのですね。
では、後継ぎ遺贈型受益者連続信託で、指定された受益者が放棄したら。
その場合でも受益者連続を維持したいなら、信託行為で別途定めておけと。
そうか、いろいろ考えるべき点多いのですね。
このほかに、差押えや質権の論点記述がありますが、省略します。
(税理士・公認会計士 濱田康宏)